なぜ「ロジカルシンキング研修」を受けても論理的思考力が高まらないのか

非形式論理において論理的とは

論理的思考力を高めるための書籍は毎年新たに出版され、職場では今もどこかで「論理的に考えよう」というアドバイスが交わされています。若手社員を対象としたロジカルシンキング研修も長年にわたって盛んに行われてきました。

しかし、ビジネスパーソン全体の論理的思考力が近年着実に高まったという話はほとんど耳にしません。むしろ、AIの進化によって論理的に考える機会そのものが失われつつあるのではないかという懸念すら生まれています。

本コラムでは、ロジカルシンキング研修を実施し、現場で「論理的に考えよう」と指導を続けてもなお、論理的思考力が向上しない理由を分析し、その対策を解説します。

実態調査からみる論理的思考力のニーズ

まず、当社が実施した実態調査の結果をご覧ください。

管理職に対して「部下に伸ばしてほしいスキル」を尋ねたところ、第1位は「論理的思考力」であり、約半数にあたる45.7%の管理職がこれを課題として挙げました。

部下に伸ばしてもらいたいスキル(複数回答)

出典:EdWorks「部下育成の課題に関する実態調査」2023年

論理的思考力の向上が、多くの企業において共通の重要課題となっていることがよくわかります。

なぜ研修を受けても成果が出ないのか

論理的思考力を向上させるための研修やOJTに取り組んでいる企業は少なくありません。特に研修体系が整備された企業では、入社1年目から若手のうちに受けるべき必修研修として位置づけているケースもあるでしょう。

では、これらの研修を受けた人たちは、全員が論理的思考力を高めることができているでしょうか。

残念ながら、そうとは言えないというのが現場の実感です。研修を受けた受講者を観察すると、大きく2つのグループに分かれる傾向があります。

グループ特徴
グループ A研修を受けて、論理的思考力が高まった層
グループ B研修を受けても、論理的思考力がほとんど変わらなかった層

この2つのグループは、ほぼどの企業でも見られます。では、なぜこのような差が生まれるのでしょうか。

現在広く行われているロジカルシンキング研修の多くは、経営コンサルタントやコンサルティングファームが体系化した思考フレームワークをベースとしています。MECE、ロジックツリー、Why so / So whatといったフレームワークを、ワークを通して使いこなすことを目指す構成です。

ポイント

これらのフレームワークは「すでに論理的思考の土台がある人」を前提として設計されています。

新井紀子氏の著書『シン読解力』でも、マニュアルや説明文のような論理的に書かれた文章を正しく読み解く力そのものが、多くの人において培われていないことが指摘されています。

土台となる力がなければ、どれだけ高度なフレームワークを学んでも使いこなすことはできません。既に土台ができているグループAの人たちは研修によってさらに伸びますが、グループBの人たちはフレームワークを活用できないまま終わり、「結局変わらなかった」という結果になってしまうのです。

論理的思考力の「土台」とは何か

では、論理的思考の土台となる力とは、具体的に何を指すのでしょうか。それを理解するには、「形式論理」と「非形式論理」の違いを押さえる必要があります。

形式論理

形式論理とは、数式やプログラミングのように、答えの真偽が一意に定まるものです。例えば「5+2×5=35」は正しいか、という問いに対しては、「正しくない」と明確に判断できます。

非形式論理

非形式論理とは、日常の会話や議論で用いられる自然言語による論理であり、真偽が一意に定まらないものです。例えば「東京一極集中を解消するためには、地方への財政投資が必須だ」という主張は、単純に正しい・正しくないとは言い切れません。

よく「理系の人は論理的で、文系の人は論理的ではない」と言われますが、これは必ずしも正確ではありません。理系人材が得意なのは形式論理であり、自然言語を使った議論や説明となると、途端に苦手になるケースは少なくないのです。

非形式論理における「論理的であること」とは

非形式論理において「論理的である」とはどういうことでしょうか。それは、論理展開が強固であることです。

先ほどの「東京一極集中と地方への財政投資」を例に考えてみましょう。最初の一文だけでは、「なぜ財政投資で一極集中が解消されるの?」という疑問が残ります。しかし、次のように論理を展開すると印象が変わります。

東京一極集中の根本原因は、「企業が集まるから人が集まり、人が集まるから市場が育ち、さらに企業が集まる」という正のフィードバックループにある。民間の合理的な判断だけでは、このループを断ち切ることはできない。したがって、行政が地方へ戦略的に投資し、民間が進出しやすいインセンティブを生み出すことが、一極集中是正への第一歩となる。

主張への賛否はあるにせよ、論理の筋が通っていることは伝わります。このように、非形式論理では「それぞれの言説のつながりがどれだけ強いか」が、論理的であるかどうかを左右します。

事象の抽象度を整理する力

もう一つ、非形式論理で重要なのが事象の抽象度を揃えて整理する力です。

例えば、仕事の棚卸しをしたとき、「Aプロジェクトの推進」と「B社との打ち合わせ」を同列に並べてしまうことがあります。前者はプロジェクト全体を指す上位概念であり、後者はその中の一つのアクションです。抽象度のレベルが異なるものを同じ粒度で扱ってしまっているわけです。

形式論理(数式など)であれば因数分解のように明快に整理できますが、自然言語は抽象度が曖昧なため、意識しなければ混在してしまいます。

まとめ

論理的思考力研修を受けても伸びないグループBの人たちは、非形式論理の基礎——論理のつながりを意識すること、抽象度を揃えること——が身についていないまま、フレームワークだけを学んでいることが多いのです。

対策:土台固めから始めるアプローチ

では、どうすれば論理的思考力を着実に高めることができるのでしょうか。

ポイントは、MECEやロジックツリーなどのフレームワーク学習の前に、論理的思考の土台を固めるステップを設けることです。

ステップ対象内容
Step 1論理の土台がまだできていない方非形式論理の基礎:論理のつながりを読む・つなぐ訓練
Step 2土台が既にある方MECE・ロジックツリー等のフレームワーク活用

Step1では、まず他者の説明や文章から論理展開を正確に追えるようになることを目指します。次に、自分自身の主張を論理的に強固な形でつなげる練習を積みます。

この力を定着させるには、最低でも2か月程度の期間が必要です。研修で練習し、業務で実践し、またフィードバックを受けるというサイクルを繰り返すことで、論理的思考はビジネスの現場で使えるスキルとして定着していきます。

EdWorksでは、論理的思考力の基礎がどの程度身についているかを測定するアセスメントテストと、基礎力から段階的に改善していく2か月間のトレーニングプログラムを提供しています。

「筋道の通った説明になっていない」という課題をお持ちの方は、ぜひ一度ご覧ください。

人材育成のお悩みは、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。

このコラムを書いた人

株式会社EdWorks

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株式会社EdWorks(エドワークス)は、ビジネスパーソンの能力開発を通して、個人の自己実現と企業・組織の生産性向上を実現します。


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