行動変容を起こす研修の作り方:COMPASSモデルとは何か?

「せっかく研修をしたのに受講生の行動が変わらない」
「研修なんて意味がないんじゃないか」
このように研修で得た学びを業務に活かせず、研修の意義に疑問を持ってしまうのは古くからある人材育成の課題と言えます。
果たして受講生の行動を変える研修は設計できるものなのでしょうか?
これまでも、行動変容を起こすために必要な研修設計に関して、様々な理論が提唱されてきました。今回は2024年にEuropean Journal of Work and Organizational Psychologyに発表された、COMPASSモデルについてご紹介します。
行動変容を促すアプローチ:COMPASSモデルの基本
行動変容とは何か?
行動変容とは、新しい知識やスキルを「知っている」状態から「実践し続ける」状態へと移行することです。
特にソフトスキル(コミュニケーション力、リーダーシップ、問題解決力など)は、研修で学んだだけでは変化が起こりにくく、意識的な実践が不可欠です。
例えば、「質問の仕方」を学んでも、実際の会話で相手の話の論理構造を抜き出し、適切な質問を繰り出すことができなければ意味がありません。
COMPASSモデルが対象としているのは、まさに”ソフトスキル研修”です。
(ソフトスキルとは何かについてはこちらをご参照下さい)
ビジネスにおけるソフトスキルの行動変容の重要性
ハードスキルは技術の進化とともに陳腐化してしまいますが、ソフトスキルは技術に依るものではなく長期的に価値を発揮します。
特に、リモートワークの普及やAIの活用推進が進む現代では、単なる業務遂行能力だけでなく、信頼関係の構築や協働力がより重視されるようになっています。
しかし、多くのビジネスパーソンはソフトスキルの重要性を理解していても、「実践できているか」を問われると自信が持てなかったり、当人の認識と実際の行動に乖離があることが多いのが現実です。
例えば、フィードバックの技術を学んでも、できて当たり前と考えてしまい、結局何も伝えていないということがあります。
このような「知っている」と「できる」のギャップを埋めるために、行動変容が不可欠なのです。
行動変容を促すためのフレームワークの役割
ソフトスキルはハードスキルと異なり、知識を得ることがゴールではありません。
そのため、ハードスキル以上に研修と業務を有機的に接続する設計を検討する必要があります。
COMPASSモデルは研修を行う上で考慮すべき事項が網羅されており、またエビデンスによる検証も行われています。
そのため、研修を設計する上での知見が多く含まれています。
ソフトスキル研修に影響を与える要素を理解し、自社の取り組みに照らし合わせてアップデートをかける指針とすることができます。
COMPASSモデルの概要と構成
COMPASSモデルの概要
この研究が立脚しているのは2つの先行研究です。
BaldwinとFordの研修転移フレームワーク、そしてCOM-B行動変容モデルの2つです。
これらを統合して“COMPASSモデル”が構築されています。
COMPASSとは
Capability:能力
Opportunity:機会
Motivation:モチベーション
Professionals’ Application of Soft skills:職業へのソフトスキル適用
の頭文字から来ています。
COMPASSモデルの構成
ソフトスキル研修に影響を与える要素として、大きく3つの要素があります。
それは「受講生の特性」「仕事環境」「研修の特徴」です。
「受講生の特性」と「仕事環境」に対して、「研修の特徴」が影響を与えます。
それをフレームにしたのが下記の図です。

※Making soft skills ‘stick’: a systematic scoping review and integrated training transferより弊社にて作成
それぞれの要素を更に分解し、その中でも影響度が高いものから低いものまでを列挙しています。
上記の表では、特に影響を与える要素のみを抜き出しています。
(原文でFactors with favorable evidence of impact, Factors with emerging evidence of impactとされている要素のみ抜粋)
この中で、特に研修設計を考える上で参考にしたい点を考えてみます。
COMPASSモデルの各要素の解説
受講生の特性
まず、受講生の特性です。受講生の特性に関しては動機の面で「業務への活用意欲」「仕事へのエンゲージメント」が重要な要素として挙げられています。
そもそも研修を受けても本人に活用する意欲がなかったり、仕事に対するエンゲージメントが低ければ、研修を受けただけで終わってしまいます。
そのため、受講生が研修を受ける前に動機づけを行う必要がある、というのは理解に難くはないと思います。
とはいえ、実際に研修参加前の動機づけという基本動作ができていないケースはままあるため、改めて重要な点と言えます。
仕事環境
次に、仕事環境です。
どれだけ受講生が意欲的に取り組んだとしても、仕事環境がそれをサポートしなければ、研修の学びは業務に活かされません。
特に、「トレーニング後の即時適用」「経営層/組織のサポート」「実践のための社会的機会」「職場での合図や促し」が重要な要素として挙げられていることは見逃せません。
せっかく学んでも、トレーニングから時間が経ってからしか活用場面がなかったり、職場でのサポートがなかったり、活用を促されたりしなければ、徐々に学びが形骸化して忘れられてしまいます。
研修実施前の本人への動機づけと合わせて、研修後に実践する機会や周りのサポートまで、計画・準備をしておくことで研修の効果をあげることができます。
研修(トレーニング)の特徴
そして最後に、研修の特徴です。
この中でも特に着目したいのが、「時間を空けたトレーニング/頻度の増加」「トレーニング評価」「OJT」です。
時間を空けたトレーニングを高頻度で行うことがスキル移転の重要な要素である、とエビデンスを持って語られていることは重要だと思います。
研修は1日ないし1日をある程度の間隔をあけて2回、3回で終える形態が多いでしょう。
しかし、ソフトスキル研修においては“高頻度”で行うことが効果を高める、ということが明らかにされています。
また、トレーニングの評価およびOJTとの組み合わせも重要な要素となっています。
満足度評価だけで終わらせることなく、きちんとトレーニングの評価を行い、そしてOJTとも組み合わせることでソフトスキルの業務活用が促進されます。
これらエビデンスを基にした本論文は、全ての研修設計者にとって指針とすることができると言えるでしょう。
(出典)Hamdi A. Hamzah, Andrew J. Marcinko, Becky Stephens & Mario Weick (17 Jul 2024): Making soft skills ‘stick’: a systematic scoping review and integrated training transfer framework grounded in behavioural science, European Journal of Work and Organizational Psychology, DOI: 10.1080/1359432X.2024.2376909
https://doi.org/10.1080/1359432X.2024.2376909
ポイントのまとめ
行動変容を促進するための具体的な施策
ソフトスキル研修に影響を与える3つの要素を基に、「研修前」「研修中」「研修後」の各フェーズでポイントとなるアプローチは以下となります。
研修前:受講生に研修参加前の動機付けを行う。
研修中:研修を一度で終了する形態とせず、高頻度で行い、OJTによるサポートと組み合わせて即時実践する機会を設ける。
研修後:トレーニングの評価を行う。
EdWorksでも行動変容に重きを置いたプログラムを提供しております。
こちらのページで進め方をご紹介しています。ぜひご参照ください。
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