ジョブ型・メンバーシップ型、雇用形態が及ぼす人材開発への影響

終身雇用や年功序列を前提とした「メンバーシップ型雇用」から、職務内容を明確にした「ジョブ型雇用」への移行が注目されています。
しかし、雇用形態の違いは単に人事制度の問題にとどまらず、ビジネスパーソンのスキル育成、人材開発という面でも影響を与えます。
本コラムでは、雇用形態がソフトスキル(対人能力、問題解決力、自己管理など)とハードスキル(職種ごとの専門知識など)の成長にどう影響するのかに着目し、両者の違いを探ります。
メンバーシップ型雇用とスキルの特徴
メンバーシップ型雇用
まずメンバーシップ型雇用について簡単におさらいすると、従業員が長期に会社に所属することを前提とした職務内容が限定されない雇用形態のことです。
必然的に入社後の異動も頻繁に行われます。日本の大手企業の中には多様な経験を積ませるために、2年ごとに異動を行う企業も存在します。それにより、営業部に所属していた従業員が翌月には経理部に配属されることも決して稀なケースではありません。
スキルの特徴
異動を前提とした仕組みのため、従業員本人にとっても一つの職種(営業、経理等)を極めていくのではなく、明日別の部署に異動したとしても活躍できるようソフトスキルを醸成するインセンティブが発生します。
結果的に履歴書に書けるようなハードスキル(**業務**年、**資格を保有等)は磨かれませんが、様々な職種を経験することによる視野の広さや新たな業務への適用能力、協調性・調整力・根回しなどのソフトスキルが磨かれていきます。
ジョブ型雇用とスキルの特徴
ジョブ型雇用
ジョブ型雇用は職務に対して人を割り当てる考えをベースにしているため、原則職務変更が行われることのない雇用形態のことです。
マーケッターとしてマーケティング部に配属されたら、基本的にはマーケティング部で働き続けることになります。これまでジョブ型雇用は外資系企業の特徴とみなされていたように、外資系企業では何のロール(役割)の人かが重視されます。そのため、一つの仕事を掘り下げて、専門性を磨いていくハードスキル重視の方向性にインセンティブが働きます。
スキルの特徴
一方で基本的には異動がないため(同職種で所属が変わる、海外に異動するなどはあるものの)、どの職種でも求められるソフトスキルはOJTの中で意識的に磨かない限り、人によっては身につけることが難しくなります。
ジョブ型雇用により、ハードスキルが高めやすくなり、その結果として他企業への転職もメンバーシップ型雇用に比べると容易になるため、異動の代わりの転職も一般的です。
転職した時に初めて、新たな組織文化や仕事の進め方への適応、人間関係の構築といったソフトスキルの欠如に悩むケースもあります。
英語でよく言われるフレーズに、”Having hard skills get you hired; lacking soft skills get you fired.”(ハードスキルの保有は仕事を手にする、ソフトスキルの欠如は仕事を失う)というのがあります。
まさにジョブ型雇用の特徴を言い当て、今後日本でジョブ型雇用が広がった際の未来を想起させる表現とも言えます。
ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用のスキルの関係性
雇用形態とスキルの関係性
これまでの話をまとめると、メンバーシップ型雇用は部署異動を前提としているため、どの部署でも活躍できるようハードスキルではなく、ソフトスキルが重視されます。
反対に、ジョブ型雇用は一つの職種に留まり続けることが前提とされているため、ソフトスキルよりもハードスキルが重視されます。
これを図にして考えてみます。縦軸にハードスキル、横軸にソフトスキルを置きます。上に行くほどハードスキルが高く、右にいくほどソフトスキルが高くなります。
ジョブ型雇用の従業員は左上の象限に行くインセンティブが強く、メンバーシップ型雇用は右下の象限に行くインセンティブが強いと整理できます。

スキルの側面から見るリスキリング
昨今リスキリングブームが続いています。リスキリングとは新たなスキルを獲得することですが、このスキルにソフトスキルは当てはまらず、ハードスキルを指すことが一般的です。
従来、メンバーシップ型雇用でソフトスキルのみを磨き続けてきた人が新たにハードスキルを獲得してジョブ型雇用に適用したり、新たな職種にチャレンジするケースが分かりやすいでしょう。
一方でジョブ型雇用でのリスキリングと言うと、現在の業務にAIを適用するために学び直す、またはニーズが減ってしまったジョブからニーズが高まっているジョブに変更する場合にリスキリングを行うといった場合が当てはまります。
リスキリングは縦軸のハードスキル自体を変える動き、またはハードスキルを高める行動と整理できます。
ジョブ型雇用の未来と企業が注意すべきポイント
ジョブ型雇用のリスク
今後ジョブ型雇用が増えると、従来のようにソフトスキルを磨くインセンティブが失われる可能性が高まります。そのため、結果的に“専門バカ”と言われるような、一つの職種には詳しいけれど、全体的な視野が失われた人材ばかりが育ってしまうリスクがあります。
ジョブ型雇用を適用しつつ、このようなリスクを排除するためには2つの解決策が考えられます。
対策1:ソフトスキルを補完するトレーニングの実施
1つ目は、ソフトスキルを補完するトレーニングの実施です。
これまでメンバーシップ型雇用では意識せずに磨かれていたソフトスキルが、ジョブ型雇用では意識しないと磨かれなくなります。そのため、従業員への意識づけはもちろんのこと、体系立てたトレーニングが必要となります。
例えば、インサイドセールスとしてキャリアを築いてきた人は、お客様ニーズの発掘など専門的なスキルは非常に高くなるでしょう。しかし、他部署と共同で新たな施策を実施しようとした時に、ビジョンを構築したり、他部署との利害を調整したり、会議のファシリテーションを行ったりするスキルは持ち合わせていない場合があります。
メンバーシップ型雇用であれば、チームで協働したり、複数部署での多様な経験を積むことで当然培われるはずのスキルが、ジョブ型雇用では欠如してしまう可能性を前提に、育成自体の見直しを行う必要があります。
対策2:部署横断タスクフォースの設置と参加
2つ目は、部署を横断したタスクフォースの設置と参加です。
ジョブ型雇用は特定の専門分野に長ける一方で、専門分野以外には疎くなりがちです。
その結果として、企業全体で見た時のバリューチェーンがうまく流れなくなるケースがあります。
例えば、フィールドセールス(営業)でキャリアを築いてきた人は、顧客への価値提案に関するスキルは高まっていきますが、販売した後に自社内でどのようなメンバーがどのような価値をお客様に届けているのかに疎くなりがちです。
その結果、販売後の保守サポートを運営するチームの課題などが分からず、個別最適な提案をお客様にしてしまい、サポートチームが苦労するというケースも起こりえます。
ジョブ型雇用によって職務が細分化されることによる全社的な視野の欠如は、企業全体のバリューチェーンに影響を与えてしまいます。
これらを予防するためには、意図的に部署横断的なタスクフォースを結成し、他部署の業務内容や課題に触れる機会を作ることが大切です。
仮に継続利用を前提としているサービスを販売している会社で、顧客のリテンション率(継続率)が下がってしまっている場合、単に保守サポートの問題として取り組むのではなく、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールスなど前工程の部署からも人材を集めてタスクフォースを結成し、課題に向けて取り組むことも有益です。
このような取り組みを通じて、専門以外の領域への理解を深め、バリューチェーン全体の高度化を図ることができます。また、将来的には全社的な視野を持った人材を幹部登用する際の、人材開発の基盤として活用することもできます。
人材開発の副作用を加味した組織運営を
ジョブ型雇用は人事制度面が強調されることが多いですが、本コラムで見た通り、人材開発の面でも大きな影響を与えます。
ジョブ型雇用のメリットだけではなく、人材開発の副作用を見通した上での人材開発・組織運営が今後は求められるでしょう。
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