お客様の声:キヤノンマーケティングジャパン株式会社

研修で終わらせない人材育成
キヤノンマーケティングジャパンが実践する3年間ロールモデル育成と「選抜」設計の真意

キヤノンマーケティングジャパン株式会社

「今年もとりあえずあの研修をやるか」。毎年度末になると、こんな会話が人材開発の現場で繰り返されていないだろうか。個々の研修は充実している。しかし、目指すべき人材像に向けて策定したロードマップに則って翌年どうするか、その翌年どうするかとなると、途端に手が止まる。結果として単発の施策が積み重なるだけで、組織の底力は変わらない。

この「年度ごとの計画」から抜け出し、複数年計画をどう設計し、どう育成サイクルを回し続けるか。キヤノンマーケティングジャパン株式会社・情報通信システム本部が取り組む3年間の長期人材育成プログラムは、その問いに対する一つのリアルな答えを示している。同社の人材育成担当者にインタビューし、設計の思想から運営の苦労、そして現在進行形の課題まで、包み隠さず語ってもらった。

ロールモデルの再定義と育成プランの見直し

キヤノンマーケティングジャパンの情報通信システム本部は、約250名が所属する組織だ。全社のDX戦略立案からシステムの開発・運用保守、データ活用基盤の整備、セキュリティ対応まで、会社のITを幅広く担う。

IT部門である以上、技術の進化に合わせてスキルを伸ばすことは不可欠だ。しかし同本部が直面していた問題は、技術力だけでは解決できなかった。

「私共のお客様は社内です。外のお客様相手の仕事に比べると、受け身になってしまい、お客様の課題への提案力、やりきる意識、説明責任を果たすという部分で甘さがある。そこを払拭し、プロとして信頼を得るためには、技術面以外の育成も必要。」

これまで技術力の向上には継続的に取り組んできたものの、それだけでは顧客の期待に十分応えられていないという実感があった。顧客の背景や潜在的な課題を理解し、主体的に仕事を前に進めるためのソフトスキル――共感力、問題解決力、リーダーシップ――が十分に育ちきっていなかったのだ。計画通りにやり遂げられない、それがなんとなく許容されてしまっている。そういった組織文化をどう変えるか、というところから育成計画の見直しは始まった。

なぜ全員対象ではなく「選抜式」にしたのか

多くの企業が選抜型研修に躊躇する理由の一つは、「公平性」「納得性」への懸念だ。一部の人だけが受講することへの不満や、選ばれなかった人のモチベーション低下を心配するあまり、結果として全員対象にして希薄な施策になってしまうケースは少なくない。 同本部があえて選抜式を選んだのには、明確な理由があった。

「ソフトスキルは、対象者のやる気が結果を大きく左右します。いくら良いトレーニングを受けても、本人にやる気がなければ良い効果は得られない。まずはやる気のある人を育て、その人がロールモデルとなることで、組織風土を変えていくほうが効果的だと考えました」

さらに特徴的なのは、選定基準に「上司の育成への積極性」を加えたことだ。受講者本人の意欲だけでなく、受講者を送り出す上司が、業務アサインやフィードバックを通じて育成に本気で関われるかどうかを、選考の条件の一つにした。

対象は20代を中心とした若手で、リーダーを目指す意思があること。募集は自薦または他薦で行い、「本当はやってみたかったけれど手を挙げにくかった」という人材も拾い上げられるように工夫した。

同じ部署から複数の応募があった場合は、上長の負担感を確認した上で対象者を絞る調整も行った。選抜は「選ぶ」だけでなく、選んだ後の育成環境が整うかどうかまで含めて設計されている。

ロールモデルが育てばその人が後輩をコーチングする。コーチングを受けた後輩が次のロールモデルになる。こうした好循環を意図的に設計したのが、この選抜式プログラムの核心だ。

3年間プログラムの設計と「業務連動」の核心

プログラムは3年間で一つのサイクルを形成している。

  • 1年目:外部研修による基礎スキルの習得と、業務での実践
  • 2年目:学んだスキルを自力で仕事に組み込み、定着させる
  • 3年目:新たな受講者のコーチング役・トレーナーとして関わる

重要なのは、1年目から「3年目にはコーチ役になってもらう」と伝えて参加してもらうことだ。研修を「受ける側」としてではなく、将来「育てる側」になることを前提に関わることで、当事者意識の質が変わる。4年目にはロールモデルとして確立することを最終ゴールに見据えている。

1年目のトレーニング設計の根幹にあるのは、「70:20:10の法則」への着目だ。人が成長する割合の70%は仕事上の経験、20%は上司・同僚からのフィードバック、残り10%が研修だとされる。つまり外部トレーニングがどれだけ充実していても、それだけでは成長の1割にしかならない。

そこで設計したのが「週1時間のトレーニング+1週間の業務実践+フィードバック」を1サイクルとする繰り返し構造だ。学んだことをすぐに業務で試し、上長・同僚・メンターからフィードバックをもらい、内省して概念化する。翌週にその成果を発表してから次の単元へ進む。この「学ぶ→試す→振り返る」のサイクルが6ヶ月続く。

当初、このトレーニング期間は3ヶ月で設計されていた。しかし実際に試したところ、現場から声が上がった。

「学んだことを実践してほしいのだが、1週間ではなかなか実践の場を提供できない。学ぶスキルによってはもっと長い時間を要するんです。無理やり業務を作ってやっていた、という声もありました」

スキルによって実践に必要な時間軸は異なる。毎日使えるロジカルシンキングもあれば、発表や会議がないと実践できないプレゼンテーションやファシリテーションもある。この現実を受けて、期間を6ヶ月に延長し、スキルの種類によっては実践サイクルを2〜4週間に広げる変更を加えた。

「完璧に設計してから動かす」ではなく「動かしながら現場に合わせて改善する」。この姿勢がプログラムを実態に即したものにし続けている。

上長の関与は、成長の「20%」を担う存在として欠かせない。しかし多忙な管理職に育成を優先してもらうのは容易ではない。同本部では以下のような工夫を積み重ねてきた。

  • プログラム開始時のオリエンテーションで、趣旨・期待する関与を丁寧に説明
  • トレーニング期間中は「学んだテーマ・実践促進メッセージ」を定期的に発信
  • 1年目終了時の最終報告会に上司全員を同席してもらい、2年目への意識切り替えを促す

最終報告会への上司同席は、1年目の振り返りから2年目の始動を促すための「スイッチを入れる場」として機能している。この変更も現場ヒアリングから生まれたものだ。

現場のリアル──成果・苦労・これからの課題

受講者からの評価は概ね高かった。他社での個別テーマ研修(ロジカルシンキング、プレゼンテーションなど)を経験した人も多かったが、今回のプログラムで特に評価が高かったのは「受講して終わりではなく、業務実践がセットになっていた点」だという。

「実践を通じて初めて学びが定着するということを実感できた、という声が多かったです。半年間が長かったという声は出てきませんでした。実践の大切さを実感いただいていたので、実践経験のための期間がむしろ足りないと感じた人がいたくらいです」

現場からも手応えを示すエピソードがあった。ロジカルシンキングを学んだ受講者が、IT案件の企画内容を経営層へ説明する役割を任されたというケースだ。通常はベテランや管理職が担う重要な場に若手を立たせた。その資料構成や伝え方は大きく成長していたという。

「プログラムの目的が上司にちゃんと理解されていると感じた」と担当者は振り返る。研修で学んだことを業務の実践の場として体現させた好例だ。

もちろん課題もある。組織変更によって本部員が複数拠点に分散する時期が重なり、対面でのコミュニケーションが取りにくくなったことが、受講者や上長への細やかな働きかけを難しくした。

また、研修中の半年間はいわば強制力が働くが、終わったあとは意識が薄れてしまうのではないかという懸念があった。ロールモデルに成長するまでの具体的な育成イメージを擦り合わせた上で、スキルアセスメントをプログラムの3年目まで実施することとした。

「このプログラムの進め方が正解だったのかは、まだ言い切れないところも正直あります。ただ、長期計画の中で計画通りに進んでいないなら、都度改善しながらやっていくしかない」

まとめ 長期育成の循環を回し続けるために

キヤノンマーケティングジャパン・情報通信システム本部の事例から見えてくるのは、「動かしながら改善し続ける仕組み」を持つこと、そして「業務アサインと連動させる」ことの重要性だ。

  • 研修は成長の10%。残り90%を担う「業務実践の場の確保」と「フィードバック」を設計に組み込む
  • 選抜はゴールではなく、ロールモデルを起点にした好循環を生み出す手段
  • 現場の声を定期的に拾い、計画を柔軟にアップデートし続ける姿勢が長期計画を生きたものにする

プログラムはまだ2年目。3年目のコーチング実践、4年目のロールモデル確立というゴールはこれからだ。「完成した成功事例」ではなく「進行中のリアル」として、この取り組みは続いていく。


企業紹介


キヤノンマーケティングジャパン株式会社

キヤノン製品の国内マーケティング・販売・サービスおよびITソリューション事業を展開。キヤノンの製品力とITソリューションを掛け合わせ、大手企業から中小企業・個人まで幅広い顧客層にソリューションを提供している。


※記事の内容および所属等はインタビュー時点のものとなります。

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